おりしも、集会場に集まった農民たちは、大きな恐怖や興奮からマスヒステリー状態になっていた。そして、恐怖と興奮はいまや、WSGAとその傭兵隊に対する憎悪になっていた。
そこにエラの知らせが入った。このときばかりは、集会場にいた女たちもエラの話を真剣に聞いた。
農民たちは全員で傭兵隊に先制攻撃をかけようと言い出した。敵愾心は見る間に増幅して、農民たちは男も女も銃を手に取り馬や馬車に乗って、傭兵隊の集結地点に押しかけることにした。
あとに残ったエラは、ジェイムズの部屋の窓の下に行って、農民たちを助けてほしいと頼んだが、彼は返事もせずに無表情のまま旅支度を続けていた。
ジェイムズは、混乱と殺りくに明け暮れるジョンスン郡を離れようとしていた。エラに袖にされた以上、もはやここに残る意味もなかったのかもしれない。
狂気じみた熱狂と興奮に陶酔したかのような開拓農民たちは、原野の荒れた道やぬかるみを突っ走った。その数200人近く。血走った眼で馬を駆り立てていた。巨大な群集だが、まるきり統制がとれていなかった。
そのため、馬や馬車から振り落とされたり、川に架けられた橋から馬車ごと転落したりして、「戦場」に到着する前に何人もの死者を出した。マスヒステリー状態で走る農民たちは、こうした犠牲者を助けようともしなかった。平然と犠牲者の横を通り過ぎていった。
激情に駆られて統制のとれない群衆の運動は、得てしてこういうものなのかもしれない。
それでも、転落した者たちの家族は、突然正気に戻り、恐ろしい事態の成り行きに驚き、嘆き、そして妻や夫を救い出そうとした。だが、多くは助からなかった。家族を失った者たちは、そこで群集から脱落して、茫然とし、悲嘆に暮れていた。
この様子を察知した傭兵隊の斥候は、集結地点に駆け戻って、仲間に急を告げた。だが、彼らが迎撃態勢を整える間もなく、農民たちは傭兵隊の周囲を幾重にも取り囲んで、馬や馬車で旋回し始めた。そこは「天国の門」と呼ばれる荒れ地のなかの場所だった。
傭兵隊を囲んだ農民たちだったが、何しろガンファイトをしたこともなく、戦闘術については何の訓練も経験もない。戦術もなかれば陣形もなかった。だから、ひたすら走りまわって、あてずっぽうに発砲して威嚇するだけだった。
奇襲を受けた傭兵隊は、混乱しながらも迎撃態勢を立て直した。そして、自分たちの周囲を駆け回る農民たちを狙い撃ちし始めた。混乱した戦闘が始まった。ここでも、馬車の操縦を誤って転落したり、落馬したりして、命を落とす農民が続出した。
それでも、ジョン・ブリッジの号令で農民たちの傭兵隊への銃撃が始まった。傭兵たちは次々に倒れていった。多勢に無勢の不利を覚ったカントンは、護衛を1人連れて馬で包囲を突き破って、連邦騎兵隊の駐屯基地――たぶんバッファロウにある――に救援を要請しに走り出した。
抜け目なく自分の命は守りながら、次の手を打とうという腹だった。まことに腹黒く、しぶとい。したたかな牧場主として数多くの競争相手を出し抜き、蹴り落して生き延びてきた企業家だけのことはある。