荒くれガンマンたちのなかにいながら、ネイトは超然としていた。服装はいつも身綺麗で端正だった。WSGAから請け負った捕縛や処刑の仕事は、当局からの許可状のないものは、けっして受けなかった。だが、彼は傭兵団のなかで一番の腕利き、速撃ちだった。
彼は原野の真ん中に丸太小屋を建てて、相棒のニック・レイとともに暮らしていた。コテイジにはときおり、森で狩猟を生業としているトラッパーがやって来た。
小屋の内壁には独特の壁紙が貼られていた。壁紙はすべて新聞紙だった。文字や文章の読み書きを学ぶためだった。ことほどさように、ネイトは端正なうえに努力の塊だった。
その彼が、WSGAに雇われて殺し屋をしている。なんという物語の構図(人物設定)なのだろう。
ネイトは、WSGAのガンマンに対抗して農民を守ろうと立ちはだかっているジェイムズを深く尊敬していた。恋敵だが、少なくともネイトにしてみれば、ジェイムズは親友だった。
そのジェイムズは、エラに美しい馬車を贈ったが、ネイトは求婚の言葉を贈った。
エラは「正義の女神」のように、ネイトの誠実さ端正さとジェイムズの資産を天秤にかけて悩んでいた。彼女は、両方とも深く愛していた。だが、エラから見て理由は不明だが、ジェイムズは彼女に深い誠意を尽くすのに、結婚を求めることはなかった。エラはジェイムズが何者でどういう家族がいるのか、知らなかったのだ。
とはいえ、「官舎」のジェイムズの部屋のテイブルに、若いジェイムズが美しい女性と2人で写ってる写真がある。エラは、それがジェイムズの妻であろうことは感づいていた。だから、彼女の天秤の目盛りは、今や決定的にネイトの側に傾いていた。
ところで、金銭取引に厳格なエラは、娼婦館を訪れる客に代金の前払いを要求した。現金がない者たちは、金目のものや家畜を持ち込んだ。そこで、若い農民のなかには、私娼の館に通うために、大牧牛業者の所有する牛を盗み出す者がいた。
その構図は、WSGAのカントンから見ると、エラが牛泥棒の1つの大きな原因となっているということになる。というわけで、カントンは「抹殺者リスト」のなかにエラ・ワトスンの名前を記載していると公言していた。
そのことを知ったジェイムズは、エラにいっしょにこの土地から出て行こうと強く誘った。だが、エラは拒絶していた。彼女はネイトとの結婚を選択したのだ。
この失恋に傷ついたジェイムズは、ある夜、したたかに酔っぱらった。酔って荒れて、ジョン・ブリッジの店で倒れ込んでしまった。そのジェイムズを担いで官舎まで運んだのは、ネイトだった。ジェイムズの深酒の原因を作ったのが自分だと考えたせいか。それとも、教養深いジェイムズを尊敬するからだろうか。
ある日、ジェイムズは連邦陸軍――ワイオミング州駐留の騎兵連隊――の大尉、ミナルディからWSGAの「処刑者名簿」を手に入れた。騎兵隊は、ワイオミング州内での大規模な紛争を抑止しなければならなかったが、それは州知事の要請がある場合に限られていた。
ところがその州知事は、WSGAの策謀を受け入れていた。というのも、彼の支持基盤・財政基盤はまさにWSGAにほかならないからだ。
ミナルディとしても地方ボスたちの専横が面白くなかったが、カントンの後ろには、連邦国務長官やら大統領府の高官、元老院の大物たちが控えていた。カントンは、連邦政府の高官や閣僚を輩出する、アメリカでも指折りのエスタブリッシュ家門の出身者なのだ。
だから、ジェイムズにリストを手渡して、せめてもの溜飲を下げたというべきかもしれない。