その頃、WSGAによるジョンスン郡開拓農民の駆逐作戦は着々と進んでいた。
カントンはまず、ワイオミングだけでなくオクラホマ州、コロラド州などでも傭兵の募集を始めた。とくに軍隊経験者を優遇していた。高額の報酬に引きつけられて破壊と殺戮の専門技能を備えたガンマンたちが、カントンのもとに集合してきた。
ガンマンたちに対してWSGAは、傭兵としての高額報酬のほかに、これまで子飼いのガンマンにやっていた通り、農民1人の殺害に50ドルの報償を出すことにしていた。
カントンは、入植農民たちに動きを知られないように、ジョンスン郡から離れた場所で傭兵隊を集結させて騎馬兵団を組織して。ジョンスン郡の農民に奇襲をかけようとしていた。
だが、50人を超えるガンマンと武器弾薬の集塊はどこかで人の目を引いてしまう。そこで、カントンは特別列車を仕立てて、それに大規模な私兵団と兵器を乗せて、ジョンスン郡からほど近い草原まで運び、そこで襲撃態勢を整えることにした。
ところが、この特別列車の運行は、鉄道員のカリーに知られてしまった。
というのは、こういう事情だった。
カリーは、単線鉄道での列車のすれ違いのために、駅での列車の発着管理や迂回線に列車を引きれ入れるためのポイント切り替えを担当していた。カリーにとって、運行計画表にない列車の走行はゆゆしき問題だった。
カリーは、高速で駅を通過していく怪しげな列車を見たのち、列車の行方を目で追った。列車の窓には荒くれガンマンと思しき人影が映っていた。そして、列車が遠ざかったのち、線路に耳を当てて音を聞き取った。すると音の響きから、ジョンスン郡への街道との交点あたりの距離で停車したことがわかった。
こういうしだいで、「いよいよ戦争が始まる」とカリーは知ったというわけだ。
カリーも、ヨーロッパから移住してきた入植者の家の出だった――当時、アメリカ人のほとんどは1代または数代前は移民だったのだ。
普段は「触らぬ神にたたりなし」という態度で世の中を渡ってきたが、WSGAの横暴には腹立たしく思っていた。だから、移民入植者たちが襲撃されるのを黙認できなかったのだ。
彼は傭兵隊の集結を知らせようと、馬に乗ってジョンスン郡に向かって走り出した。
だが、ワイオミングの大平原はあまりに広い。そして、ジョンスン郡までの距離は遠い。途中で日が暮れてしまった。そこで、カリーは野宿した。
運悪く、翌早朝、毛布にくるまっているカリーは、カントンが率いる傭兵隊に発見されてしまった。そして、馬に乗って走り出したところを待ち伏せていた傭兵隊に狙い撃ちされて虐殺されることになった。