やがて、日没がやって来た。農民たちは包囲を解いて、傭兵隊から隔たった草原の奥まで撤退した。だが、臨戦態勢を解くことはなく、傭兵が逃げ出そうとすれば射撃する準備をしていた。これまでの疲労を少しでも癒そうとしていたようだ。
他方、傭兵隊は、そこかしこに乗り捨てられ倒れている馬車の残骸を集め積み上げて、バリケイドを組み上げた。バリケイドがあれば、防御陣の内側に銃座を構えて、近づく農民たちを狙い撃ちできる。そうなると、むしろ包囲した方が不利になる。
さて、その夕暮れの少し前、旅支度のスーツに身を固めたジェイムズが官舎の外に出てきて、馬に跨った。だが、荷物を厩番の男に預けると、駅への道とは反対の方向に走り出した。悩んだ挙句、結局、農民たちを支援することにしたのだ。
ジェイムズは戦いの支度をして、草原への道を走り続けた。
途中、ネイトのコテイジの傍らを通り過ぎた。住家はほとんど焼け落ちて、炭化した弾痕だらけの家の柱の残骸を一瞥すると、意を決したように「戦場」に向かった。
ジェイムズが農民たちの野営地に到着したのは、すっかり夕暮れが草原を覆い尽くしてからだった。彼は一目見るなり、農民たちは数では圧倒したが戦闘技術がないために、多くの損耗を受けている様子を見抜いた。
そこで、「古代ローマの歩兵団の作戦」を思い出し、それを明朝の戦いに応用しようと決めた。古代ローマの作戦というのは、甲冑を付けた重武装の歩兵が楯となって、場合によっては弓除けの大きな木製の楯を前面に押し出しながら進軍する陣形をいう。古代ローマの歩兵団は、木材の壁=楯を強力な弓隊の矢から自軍を守るために使用したのだ。
そのため、周囲の森から木材を切り出させて、荷車に大きな箱型の枠組みを設えさせ、前面に丸太を組んだ壁を二重に取り付けた。丸太の二重の壁は、傭兵隊の銃撃に対する楯の役割を果たすはずだった。丸太の楯を取り付けた荷車が何台も組み立てられた。
へヴンズゲイトでは、銃弾に対する楯として利用されることになった。
翌未明、傭兵たちは木材がこすれ軋むような音に目覚めた。音はのろのろと近づいてきた。
まもなく夜明けの明るみがきざしてくると、ガンマンたちは「古代ローマ歩兵団の楯車」のワイオミング版が近づいてくるのを知った。そして、周囲への一斉射撃を開始した。
だが、ほとんど銃弾は、丸太の壁に食い込むだけで、その後ろで荷車を押す農民たちを殺傷することができなかった。だが、いきり立ち、攻撃に逸る農民たちのなかには、楯の横に出て銃撃を始める者もいた。作戦の統率からの逸脱だった。逸脱者たちには、容赦なく傭兵隊の銃弾が撃ち込まれた。
楯車による包囲の輪はしだいに縮められ、やがて、近距離での銃撃戦の応酬が始まった。こうなれば、狭い場所に多数が凝集している方が命中する確率はきわめて高くなるので、農民よりも傭兵隊の方が著しく不利になる。
しかも、農民たちには、ジェイムズが用意してきた爆薬が手渡されていた。農民たちは爆薬を傭兵隊の陣に向かって投げ込み始めた。
こうして、傭兵隊のメンバーは1人、また1人と倒れていった。
ところが、傭兵隊のバリケイド陣地をすっかり包囲するには、農民たちの楯車の台数は足りなかった。何しろ、ひと晩で急ごしらえしたのだ。あるいは、ジェイムズが、傭兵たちの退路を意図的に残すために、わざと一方向だけ開放しておいたかもしれない?
いずれにせよ、目端の利いた――命が惜しい――ガンマンたちは包囲網の間隙から抜け出ていった。あとに残された傭兵は、農民による皆殺しを待つだけの窮地に陥った。