カントンは傭兵団による襲撃を奇襲にしたかったが、鄙びたこの地方に大規模な騎馬軍団が数十マイルも動くのである、多くの人びとが目撃し、すぐに噂が一帯に広まった。
ジョンスンの町の資産家や商店主たちは動揺した。彼らには「失うもの」があったからだ。開拓農民と傭兵隊との衝突が町まで飛び火すれば、自分たちの店や商品などの資産が破壊・焼失してしまうかもしれない。
郡内の資産家や経営者層に突き上げられた町長は、WSGAの権力を何よりも恐れた。彼らが「牛泥棒が悪い」というのなら、牛泥棒として「処刑者リスト」に乗せられた農民を捕縛して引き渡せばいい、と考えた。
町の経営者のなかには、そんな臆病な方針に反対する者もいた。だが、大半はようやく蓄えてきた資産を守りたい、という欲望に突き動かされて怯えていた。
町長を先頭として町の名士たちは、ジェイムズの官舎に向かった。
ジェイムズは昨夜の深酒で指揮を失ったように眠っていた。町長たちが起こそうと声をかけても、目覚めなかった。そこで、町長がジェイムズの体を揺すると、警戒のためか、鞭を握って眠っていたジェイムズは反射的に鞭を振り回して防御態勢を取った。大騒ぎになった。
ようやく覚醒したジェイムズは、町長たちが「リストの農民をWSGAに引き渡せ」と自己保身丸出しの要求を言い出すのを、ベッドの下に脱ぎ捨てたブーツを探しながら聞いた。そして要求を無視した。
それどころか、「卑怯者、何に怯えているんだ。今、何をすべきかわからないのか」と罵った。
頭にきた町長は、「君は馘首だ!」と言い切った。
ジェイムズは反論した。
「いや、馘首にはできない。なぜなら、私は辞任するからだ」と返答した。ジェイムズはもう、何もかも嫌になっていた。
ところが、この町長や名士たちの卑怯な「裏切り行為」の情報は、またたくまに農民のあいだに広がった。開拓農民を擁護する者たちと排斥する――というよりも、排斥されるのを座視する――者たち。郡の住民は、2つの陣営に分裂してしまった。
そこで、住民たちは自治団体としての郡の対応を決めるため、住民集会を開催することにした。彼らは集会場にジェイムズを呼び寄せて、「リスト」にある名前を知らせるように求めた。
WSGAの襲撃に備えての対策会議だ。
ジェイムズが集会場に現れたとき、住民はここでも2つの陣営に分裂・対立していた――町の有力者や商店主などの資産家・名士たちの陣営と、ずっと数の多い開拓農民たちの陣営に。
2つの勢力は激しく論争していた。いや、というよりも罵り合っていた。
喧騒を鎮めるため、飲み屋のおやじ、ジョン・ブリッジは拳銃を天井に向けてぶっ放した。それでも、静かになったところで、ふたたび論争が火を噴いた。農民たちは、ジェイムズに「リストの名前」を読み上げてくれと言い出した。
ジェイムズは、ゆっくりと125人の名前を読み上げていった。名前を呼ばれた人びと――ほとんどは男――は衝撃を受けた。リストには郡の農民の世帯主のほとんどが網羅されていた。
「125人だって! これでは皆殺しではないか!」
農民たちの恐怖は互いに共鳴し合い、怒りが込められた興奮となっていった。興奮はとめどもなく昂じていって、マスヒステリー状態になった。