さて、北西部辺境のワイオミングに移住(入植)してきた農民たちの大半は、風習から察するに、ヨーロッパでもカトリック教会の勢力が強い地方からやって来たようだ。ボヘミアやハンガリー、フランス南部からとか……。
彼らは月曜日から土曜日までは、寒風を浴びながら荒れ地の開拓に打ち込んでいた。馬や有輪鋤などの農具を持たない農民たちは、家族全員が働き手となって、さらに集落のメンバーが互いに協力しながら、荒れ地を耕そうとしていた。
そして、ようやく訪れた日曜日(安息日)。束の間の休息や娯楽にひたる。
辺境の開拓地で酒場と闘鶏場を開いているジョン・ブリッジは、日常の鬱屈を晴らそうとして酒やギャンブルになけなしの金を投じる男たちから小金を巻き上げていたが、開拓地のリーダーで農民たちの用心棒も兼ねていた。そして、ジェイムズの盟友だった。
このところ、WSGAに雇われたガンマンたちがこのあたりをうろつくようになったことから、ジョンは自衛――入植者たちの防衛も含めて――のためにジェイムズに新型のライフル銃(ウィンチェスター)の購入を頼んでいた。ジェイムズは買い入れたばかりのライフル銃を手土産に、ジョンの酒場兼闘鶏場に現れた。
酒場の闘鶏場では、男たちが賭博に熱狂していた。貧しい家計から持ち出したわずかの金を、鶏のケンカに注ぎ込んで、日頃の鬱憤を晴らしている。これまた絵に描いたような貧しさの悪循環の光景。
ジェイムズはジョンに銃を渡しながら、WSGAの策謀を打ち明けた。ジェイムズは、「この情報は、今日はせっかくの日曜日だから、明日以降に農民たちに公表する」と言った。
ところで、開拓地の住宅はほとんどが丸太小屋だった。そして、ジョンスン郡の住民集会場は、丸太の骨組みに帆布を張り付けただけの建物だった。町のなかの道も舗装されることはなく、いつもぬかるんでいた。
ジェイムズは町のなかのうらぶれた木賃宿の中2階の1室に住んでいた。町長からあてがわれた官舎なのかもしれない。
居住する部屋のなかのテイブルには、若かった頃のジェイムズと美しい妻が木の下で盛装している写真が置いてある。彼には、東部に残してきた妻がいるらしい。
にもかかわらず、ジェイムズは美貌の若い女性、エラ・ワトスンが経営する私娼宿に入り浸っている。列車に積んできた小奇麗な馬車は、エラへの贈り物だった。ジェイムズは馬車に美しい黒毛の馬をつけて贈った。エラはとても喜んだ。
■エラとネイサン■
エラはひたすら金儲けのために、自らも腕利きの娼婦となって、この快楽の館を経営しているやり手である。代金はすべて前金で受け取ることにしていて、「掛け」は絶対認めない。彼女はすべての「商行為」の金銭を、帳簿に記録している。守銭奴なのかもしれない。こんな辺境で女が一人で生き抜くためには、守銭奴になるしかないのだろう。
彼女自身の上得意の客は2人いた。
1人はジェイムズ。もう1人は、WSGAの雇われガンマン、ネイサン・チャンピオン――以下、ネイト――だった。
ネイトは美貌の若者で、礼儀正しい男だった。貧しい家庭の出身らしくて、文字の読み書きができなかった。雇われガンマンの仕事は大金を稼いで、社会的地位の上昇をはかるための手段だった。裁判で有罪とされた農民1人の処刑・捕縛について50ドルの賞金が入るのだ。
彼はエラの上客だったが、同時に彼女から文字の読み書きを習う弟子でもあった。だから、ネイトはなおのこと、エラに対して丁重だった。
つまり、エラを挟んでネイトとジェイムズが互いに張り合うと同時に、立場を超えて相手を認め合う不思議な「三角関係」を形成していた。