この映画作品のインスパイアード・モデルになったのは、1892年にワイオミング辺境郡一帯で展開された、WSGAの傭兵団と農民集団との一連の大規模な戦闘=銃撃戦だと思われる。ジョンスン郡はもとより、パウダーリヴァー郡、リヴァース郡、ナトローナ郡で、激しい戦闘が繰り広げられたという。
WSGAの傭兵隊と武装農民との戦闘、これを抑えようとする地方当局者(郡保安官など)が三つ巴で争う事態となった。地方当局者の多くは、WSGAによって買収されていたであろうから、保安官はWSGAの側に立って紛争を収めようとしたかもしれない。
まさに「階級戦争」だった。各地で激発する「戦争」のために、ワイオミング辺境郡一帯では「無政府状態」「無秩序」が出現したという。そのため、当時の大統領は、バッファロウに駐屯する連邦騎兵隊(連隊)を治安と秩序回復のために投入することを命じた。
WSGAの指導者はフランク・ウォルコットで、彼が雇い入れた冷酷で辣腕の傭兵隊のリーダー(ガンマン)が、元ジョンスン郡保安官で私立捜査員、フランク・カントンだった。そして、1880年代末の紛争の中で、農民の指導者だったジェイムズ・エイヴリルやエラ・ワトスンが私兵団によるリンチに合って殺された。エラ・ワトスンは牛泥棒を実際におこなっていただろうという。
ネイサン・チャンピオンは、WSGAの行き過ぎた暴力や横暴に対抗して農民や小規模畜産業者の利益を守るために、「北部ワイオミング農民・畜産者協会:NWFSGA)」を組織した。彼もまた、紛争のなかで殺されてしまった。
当時の合衆国の新聞各紙は、一連の事件を「階級戦争 class war 」として報じている。
さて、1892年の戦争では、それまでの戦闘を経験した農民たちが圧倒的な多数で結集して銃撃戦に臨んだため、傭兵隊は孤立し多くの犠牲者を出した。そして、映画のように全滅寸前に連邦騎兵隊の介入によって「拘束」され、保護された。
その後、傭兵隊のメンバーは「無罪」とされて釈放された。大統領府と州政府(裁判所)が、だれの利益を最優先に尊重していたかがわかる。
というわけで、この映画は、ワイオミング北部辺境郡での「階級戦争」によってインスパイアされてはいるが、事実にもとづく物語ではない。とはいえ、この階級戦争の実相を如実に描き出してはいる。
それゆえ、映画作品としての完成度や物語の展開では「名作」とはいえないかもしれないのだが、第一級の歴史ドキュメントであることは、間違いない。こういう悲惨な事件が繰り返されたのだという「アメリカの歴史」を知るために。