好景気が続いていたとき、やり手のチャールズは自動車ディーラー会社を西海岸一帯では最大の企業の1つに成長させていた。しかし大不況のなかで、経営の経営規模を縮小せざるをえなかった。しかし、温情家のチャールズは従業員の解雇を最小限度にとどめた。これまでに蓄積した富が物を言ったのだ。
経済的にはまあ安泰だったチャールズだったが、家庭は崩壊に向かっていった。
1926年――映画では、大金融恐慌の直後と脚色されているが――、ただ1人の愛息が事故死してしまった。覚えたてのトラックを運転して釣りに出かけて、峡谷を走る道から転落してしまった(実際には15歳の少年だったが、映画では12歳くらいか)のだ。
その事故以来、妻は鬱病になってしまい、やがて家を出たまま戻ることはなかった。ハウワードの家族はまたたくまに崩壊してしまった。
映画ではハウワードの愛息の事故死についてかなり脚色しているが、それは、ハウワードの悲劇を強調してみせるためだと思われる。
以下、映画の物語を追いながら、必要に応じて原作に書かれている実際の記録を参照することにする。
失意のうちに鬱々と暮らすチャールズを見て、友人たちはメクシコへの旅行に誘った。チャールズは金持ち仲間たちと旅行に出るが、その目的の半ばは、気晴らしというよりも、離婚手続きを完成させるためだったようだ。国境の向こう側では、十分な金を積めば、判事による離婚判決が即決でもらうことができたからだった。
その当時、メクシコは合衆国の属州(植民地)のようになっていて、アメリカの成金たちは国境の南側に出かけては、連邦国内では禁止されている賭博や飲酒でおおっぴらに散財したらしい。
合衆国での1ドルは、メクシコではおそらく200ドルくらいの価値を持っていたので、メクシコの基準では大金をばら撒くことになっても、アメリカ人の金持ちにとっては大した損失にはならなかった。こうして、北アメリカから来た資産家たちの気晴らし散財は、娯楽・賭博・飲酒・売春などの業界で働くメクシコ人たちの大事な収入源になった。
ハウワードと仲間たちはアメリカの成金として、競馬などのギャンブルで気晴らしをした。けれども、チャールズの気分は少しも晴れなかった。
そんな影のある中年男に惹かれたのが、妙齢の美女(金持ちの令嬢らしい)、マーセラで、彼女はきっかけを探してチャールズに近づいた。
おそらく場面はカリフォーニアに戻ってのことと思うが、2人は一緒に食事に行ったり、郊外の牧場で乗馬を楽しんだりした。マーセラは、家族を失って落ち込んでいたチャールズを励ました。
というわけで、チャールズは若いガールフレンドによって精神的に回復し、自身や人生の再設計へと再挑戦し始めた。まもなく、2人は結婚した。
その頃には、チャールズは自動車会社の経営管理からは身を引いて、リッジウッド牧場に暮らす自動車会社の大株主ないし投資家としての立場にあったらしい。実際には、チャールズは自動車会社の経営にも引き続き関与していたようだ。
そして、牧場暮らしの金持ちの趣味として、競走馬の保有と育成に手を染め始めた。映画では、マーセラの強い影響を受けてのことらしく描いている。