翌朝、ローソンという小さな町で時計店を営んでいるスタン・ケラーという老人が、いつものように犬を連れて海岸を散歩していた。すると、浜辺に若者が倒れていた。うつ伏せだったが、息はあった。助け起こしてみると、その若者はこめかみにひどい怪我をしていた。そのせいか、自分が誰かも分からなくなっていた。
記憶を失っている以外には、若者には大きな傷害はなさそうだった。
老人は若者を介助しながらローソンの市街まで連れ帰った。まず温かい食事をとらせようとして、メイベルの軽食堂に連れていった。店には、常連客のハリー・トゥリンブルがいて、メイベルとボブが調理している朝食を待ちながら朝刊を読んでいた。
スタンは若者をカウンターテイブルに座らせると、メイベルにでき上がったばかりの卵料理をこの若者に回すよう頼み込んだ。ハリーも頷いた。こうして、記憶を失った若者は、まともな食事をすることができた。
若者が食べている間に、スタンは近くの医師スタントンを呼びにいった。若者を診てもらおうとしてのことだ。スタントンは店にやってくると、スタンとともに若者を介助して自分の医院に連れていった。
その若者の顔を窓越しに見たハリーは、驚愕した。ヨーロッパで戦死したはずの息子、ルーカスに生き写しだったからだ。
■ルークの生還■
スタントン医師は若者を診察した。頭部の打撲と出血のほかには外傷はなかった。しかし、問診の結果、若者は過去の記憶をすっかり失っていて、自分が誰なのかもわからなくなっていると判断した。頭部の衝撃によって、記憶喪失に陥ってしまったらしい。
けれどもスタントン医師は、この若者と以前にあったことがあるような気がした。若者を発見したスタン老人もまた、同じような気持ちになったという。
スタントンは事故にあって記憶を失った――つまりは失踪のおそれがある――この若者のことを町の保安官に連絡した。まもなく、保安官、セシル・コールマンが診療所にやって来た。コールマンが診療所の玄関に近づいたとき、ハリーが行く手を遮った。
「あの若者は、私の息子のルークに違いない。ヨーロッパ戦線で行方不明になったんだ」と訴えた。
診療所に入ってスタントンと若者に面会したコールマンは、「この若者が誰なのかを知るために重要な手がかりを持つ人が来ている」と告げた。そして、ハリー・トゥリンブルを呼んだ。
ハリーが一同に「若者がルークに違いない、息子に生き写しだ」と説明した。スタントン医師もまた、その見解を受け入れた。というのも、この若者に生き写しの風貌をしていたルーカスは、医師の娘アデルの恋人で婚約者だったからだ。
というわけで、保安官を含めた3人の住民は、この記憶喪失の若者はルーカス・トゥリンブルに違いないという判断に達した。