翌朝、町の教会の墓地で埋葬儀式が行われた。
参列者は皆、「ルーク」にお悔やみの言葉を伝えた。ルーク=ピーターはすっかり憔悴していた。もちろん、ハリーの死が打撃となっていた。だが、自分がルークではなく、ピーター・アップルトンであるという記憶を取り戻した衝撃の方が大きかったようだ。
心配したアデルが声をかけてきた。2人は、戦死者記念碑の台座に寄り添って腰かけた。ピーターは記憶を取り戻したことをアデルに告げ、自分はルークではないと告白した。アデルは衝撃を受けた。
「本当は…あなたと再会したときから、ルークではないと気づいていたのよ。でも、ルークであってほしいと願っているうちに、ルークではないあなたに恋をしてしまった。もう2度と男性を愛さないと決心していたのに…」
そう言うと、アデルは泣きながら立ち去っていってしまった。
アデルの後ろ姿を見つめながら道に立ちつくすピーター。
そこに、黒塗りのリムジンの車列がやって来た。車でやって来たのは、議会のメッセンジャーとFBI、そして映画会社の社長と弁護士だった。警察隊が随行してきた。
議会の使者とFBIは若者に、ルークだと思われている若者がじつはピーター・アップルトンで、コミュニスト・シンパであるとして議会の委員会に召喚されている旨を宣告した。こうしてピーターは公聴会への出頭を命じられたのだ。
その一部始終を、町の人びとが遠巻きに眺めていた。事態の意外な成り行きに驚いていた。だがそれにしても、明らかに彼らは若者がルークではないということに落胆していた。やがて、肩を落とし加減の人びとは若者に背を向けて、次々に立ち去っていった。
最後まで残っていたのは、ボブだった。
彼はルークに顔を向けると、足元に唾を吐き捨てた。唾棄の理由は、自分がルークに期待を寄せたこと自体に腹が立ったからだったようだ。
ピーターは翌日、映画会社の社長とともに列車でロスアンジェルスに帰り、公聴会への準備をすることになった。ところが、議会の委員会はすでに、ピーターがコミュニストでもシンパでもないことを知っているらしい。だが、赤狩りの政治キャンペインの推進・継続のために、ピーターを召喚して、謝罪文を読み上げさせ、虚偽のブラックリストに署名させようとしていた。それが、裏取引の条件だった。
非アメリカ委員会は、実際にはその内容を明確に示さない「コミュニズム」という妖怪を仕立て上げて攻撃し、マスメディアに携わる著名人たちが自分たち委員会の権威に屈服していく、その劇的な場面を演出しようとしているのだ。
そのための「贖罪の山羊」=犠牲者として、ピーターを「断罪の場」に引き出そうとしていたわけだ。
以前のピーターならば、自己嫌悪に陥りながらも、それが通過儀礼だと割り切っていただろう。ところが、ローソンの町でルークの人柄を知り、町の人びとと知り合った今は、そういう虚偽の裏取引に従うことに、強い拒否感を抱くようになった。
だが、逮捕や収監を免れるためには、ほかに道は残されていなかった。