企画会議の席で、ピーターは茫洋と考えていた。
そのとき、社長から脚色についての意見を求められた。
「ピーター、君の意見はどうかな」
ピーターは、今回は率直で忌憚のない意見を表明した。
「まったく阿呆らしい。うんざりだ!」
そう言い捨てると、ピーターは会議室から出ていった。
以前は、とにかく映画の企画として自分の原作を採用してもらおうとして、必死に調子を合せていた。だが、あざとい状況設定やアクロバットのような筋立てには辟易していた。そして、こはやこれからは映画会社の幹部たちに媚を売る気はまったくなかった。
というのも、あのローソンの町に戻って、アデルに会いたいと願っていたからだ。そして、彼女が受け入れてくれたら、あの町で、ルークならこうしただろうと思って始めた生活を再開しようと決心したのだ。
これから、列車でローソンに向かおうとしていた。
■アデルへの打電■
「君に会うために、これからローソンの駅に向かう」ということをアデルに伝えよう。
だが、1950年代初頭には、世界の最先進国のアメリカとはいえ、まだまだ長距離市外電話は容易に使えるものではなかった。当時の最速の伝達手段は、電報( telegram / telegraph )だった。ピーターは、アデルに宛てて長い電報を打った。AT&Tの支局で、口述で文面を伝えた。
そして、ピーターは切符を買って列車に乗り込んだ。
電報はこんな内容だった。
「アデル、ぼくはこれから、君から借りたものを返すためにローソンの駅に向かう。
もし、君がぼくの望みを許して受け入れてくれるなら、駅に迎えに来てほしい。もし駅に君の姿があれば、ぼくは駅に降り立ち、君に借りたいたものを返そうと思う。
けれども、もし君の姿が見えなければ、ぼくは黙ってそのまま列車に乗り続けてずっと先の町まで行くことになるだろう…」
■エンディング■
ピーターが乗った列車はやがてローソンに近づいた。彼は期待半分、不安半分で窓から近づく駅舎の様子を眺めた。
どうやら駅の周りには大勢の人がいるようだ。
とうとう駅に到着した。小さな駅でプラットフォーム・トラックもない。列車のデックステップからじかに地面降りるしかない。その地面は、駅前の広場につながっている。
その広場に町中の人びとが詰めかけていた。人波の列が幾重にも連なっていた。一番奥の列の人たちは、「おかえりピート!」という横断幕を掲げていた。
驚いたピーターは、手荷物を抱えて列車のデックから降り立った。
駅前広場と通りに出ると、誰もが彼に声をかけてきた。挨拶と握手の歓迎。感激したピーターは、挨拶とお礼を返しながら、人波を分けて進んだ。群衆のなかにはコール町長、コールマン保安官、スタン老人、そしてメイベルと腕を組んだボブ、スペンサーとカール・レファート。エメットもいる。
ピーターは、昔からの町の住民あでるかのように、人びとに受け入れられたのだ。
ピーターはアデルの姿を探しながら進んだ。
目の前にスタントン医師がいた。ピーターはスタントンの背に隠れるように立っている女性の姿を見つけた。アデルだ。アデルが来てくれた。
ピーターはアデルを抱擁した。
という場面が結末である。