翌朝、ピーターは散策に出て、ルークの墓碑がある墓地を訪れた。
「ルークならどうするか」と考えてのことだった。ルークン墓碑の前にはアデルがいた。ルークとの訣別のためだった。ピーターは気まずげに声をかけた。
アデルはピーターの事情を知っていた。彼女はピーターに質問した。
「で、どうするの」
「取引で決められたとおりの手順を踏むよ」とピーターは答えた。
だが、アデルは反論するように問い詰めた。
「あなた自身が犯してもいない誤りを謝罪するの?
それに合衆国憲法は思想、信条、信教の自由を保障しているわ。だから、誰でもコミュニストになる自由だってあるのよ。それが合衆国が市民と交わした契約なのよ」
「憲法なんて、形ばかりの契約書と同じだよ。それに、ぼくはルークほど強くないし、立派でもない…」
ピーターは力なく反論して、アデルに背を向けた。そのまま、あちこちを彷徨いながら、ピーターは駅に向かった。
駅では、社長がいらいらしてピーターを待っていた。FBIの2人も待ち構えていた。
ところが、駅にはスタントン医師が待っていた。アデルからピーターへの贈り物を預かっていた。スタントンは、娘からの贈り物だと言って、ピーターに小さな包みを手渡した。
そして、ピーターは社長やFBIエイジェントとともに予定のロス行きの列車に乗り込んだ。列車が走りだしてローソンを離れると、ピーターはアデルから贈られた包みの包装を開けた。なかにはポケット版の合衆国憲法典が入っていた。
書籍の見返しには「解決策はすべてこのなかにあるはず。アデルより」というメッセイジがしたためられていた。
そして憲法典のなかには、ヨーロッパの最前線からアデルに宛てたルークの最後の手紙が折り込まれていた。ピーターはその手紙を読んだ。
ノルマンディー海岸でドイツ軍の防御線を突破するための総攻撃の直前の休憩時間中に、ルークが心情を綴っていた。ルークは、今度の戦闘は激烈なものになり、生還が難しいことを覚悟していた。
手紙は 「ぼくは、アメリカの自由と価値観を守るために戦場に赴く。たとい、ぼくが戦死しても、アデル、君は前に向かって歩み続けてほしい」と結ばれていた。
重苦しい恐怖、死の危険に直面した真摯な若者が、愛する女性に宛てた最後のメッセイジだった。
ピーターはルークの想いを想像しながら、憲法の条文を読んでみた。