ヨーロッパの解放 目次
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映画の見どころと分析視角
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東部戦線の特異性について
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クルスクの戦闘
クルスク戦の実相 @
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ドゥニエプル渡河作戦
驚くべき奇策
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東部戦線の特異性について


▲ヨシフ・スターリン
www11.atpages.jp/te04811jp/
page1-1-5-2.htm から引用

  ソ連崩壊という現実を見据えて、今考えると、東部戦線は、2つのタイプの全体主義的レジームの相克でした。だが、当時、ソ連は独特の民主主義を標榜し、西欧やアメリカと同盟していました。
  しかし、国家防衛のためということでの領土内の人民に対するソ連政権の対応の過酷さ、国内資源の動員の系統性について、ヒトラーは、スターリン・レジームの恐ろしさを十分に考えなかったようです。
  そして、それよりも以前に、ヒトラーとドイツ軍指導部は、戦争理論の基本を無視していました。この無視が逆に、戦争術の「革命」、飛躍的進歩、ひいては優等国民の優越性を示すものと誇示していました。

  ドイツ対ソ連の戦線(東部戦線)には、きわめて特殊な状況があるのです。とりわけ、ドイツ軍の展開における長期的展望の著しい欠如、指揮系統の脆さには、戦争術の初歩さえ踏んでいないような、恐ろしいほどの無鉄砲さがあります。
  ヒトラーが指揮するドイツ軍は、大規模な戦車隊の導入、急降下爆撃機隊の系統的投入などによって、それまでの地上戦の作戦のあり方を根本的に転換してしまいました。それ自体はなるほど技術的に大きな成功ではありました。
  ことに戦車隊の投入によって、それまでは最大でも1日に5kmからせいぜい10kmだった進軍(支配・征服地帯の拡大の速度)を、一挙に40km以上に飛躍的に拡張してしまいました。戦車は搭載した主砲の大きな破壊力に加えて、高い防御能力を持つ装甲と無限軌道(キャタピラ)による悪路の高速走行性能によって、陸軍の運動能力を新たな次元に飛躍させたのです。しかも、運動速力の大きさを支える無線通信(情報体系)を備えていたのです。
  今ではコンピュータ通信、インターネットは当たり前ですが、1940年頃には、戦場で無線による情報伝達・連絡システムは画期的で驚天動地の技術だったのです。


  しかし、この行軍距離の飛躍的拡大は、それに随伴して恐ろしい脆弱性、欠陥をもたらしました。つまり、戦線の拡大速度が大きすぎて、兵站=補給体系を構築することなく軍の展開面積が広がってしまうということでした。侵攻作戦が勝利を得るほどに、敵地のより深部に入り込んでしまい、兵站・補給線の確保が困難になっていくのです。
  バルト海東部、ベラルーシ、ウクライナ平原、ロシア平原、グルジア・中央アジア方面――とてつもなく広大な前線――にドイツ軍は急速に侵攻し、戦線を拡張しました。ところがそれは、局地戦、短期決戦の手法をもって、結果的には、あまりに広大で、それゆえまたすこぶる長期の軍事戦略――ことに兵站体系――を要する構想を備えることなしに実行してしまったということでもあったのです。
  もちろん、電撃的な侵略と破壊によって、敵の軍事力を撃滅破壊し、敵対レジームの首都や中心部に迫り、早期の降伏を迫るという大まかな目標はあったのでしょう。

  旧ソヴィエト連邦レジームの「社会主義性」を無批判に信じている立場からは、ソ連対ナチスドイツの戦いを「2つの全体主義レジームの戦い」と規定する私のような立場を「歴史修正主義」と批判・非難することになります。
  しかし、ソ連崩壊までの経緯を真摯に眺めれば、ソ連レジームの「社会主義性」はいったいどこにあったかについてはかなり否定的な答えになることは自明でしょう。現在の中国レジームについてもそうですが、体制の何をもって「社会主義」と見なすのか。まともな答えが返ってきた例はありません。
  実際に旧ソ連や現代中国についてその社会主義性を具体的に実証した研究にはお目にかかったことがありません。「共産党独裁」「主要工業部門の国有制や国営」をもって社会主義というなら、ヒトラーの「国民社会主義 Nationalsozialismus 」をも社会主義と見なすのもOKという無茶苦茶な論理になります。社会主義を標榜する政党が支配するレジームが存在することと、社会の「歴史的な質としての社会主義」を達成するということは、まったく別のことなのです。
  歴史的な事実として、ソ連では国民的(連邦)規模で経済活動が計画的に運営された実績はまったくありませんし、所得や資産の平等性が達成されたことも一度もありません。

  ところで、「スターリン」は、リェーニンやトゥロツキーと同様に、本名ではなくペンネームです。スターリンは、ドイツ語の Stahl (鋼鉄)をもとにして「鋼鉄のような堅固な意思」という意味です。リェーニンは「のろま」、トゥロツキーは――ドイツ語の逆説・反論の接続詞 trotz にちなむもので――「反抗しがちの皮肉屋」「ひねくれ者」という意味。

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