ヨーロッパの解放 目次
リアリズムとプロパガンダ
映画の見どころと分析視角
ソ連型リアリズム
リアリズムとは何か
東部戦線の特異性について
西部戦線から東部戦線へ
ナチズムを甘く見たソ連
ドイツ軍の破竹の侵攻
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クルスクの戦闘
クルスク戦の実相 @
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ドゥニエプル渡河作戦
驚くべき奇策
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ドゥニエプル渡河の戦略的な意味
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戦車の歴史の1断面
T-34の優秀性
過剰適応の失敗 T-54/55、T-62
乗員の生存率を最優先とする設計思想
T-34のデビュー
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T-34の世界市場向け映画デビュー

  さて話を戻して、1960年代末にはソ連陸軍の主力から降りていたT-34-85型。1968年のプラーハの春(チェコ自由化革命挫折)のさいのプラーハ市民鎮圧・抑圧のためにワルシャワ同盟軍の戦車(T-55の補助的な戦車として)として出撃しました。おそらくソ連東欧では、それが最後の実戦配備だと思われます。
  この時点でも、1万台近くが余っていたと思われます。そのうち、状態の良いものは、当時の友好国エジプトに譲渡されました。
  エジプト陸軍はその後、ソ連から多数のT-55、T-62を援助で受け取りますが、これらが信頼性がきわめて劣っていたため、2000年以降でもしばらくT-34を制式戦車としていました。しかし、やがてエジプト政権が親アメリカ路線に転換してからは、アメリカ陸軍で退役した型の戦車を――主力として――制式採用しているようです。


  それでも、T-34-85はソ連国内にかなりの数が残っていたはずです。
  この余った戦車の使い道のひとつが、映像『ヨーロッパの解放』シリーズへの出演だったのではないでしょうか。実際の歴史では、クルスク戦ではT-34-76型が出撃しのですが、映画では退役になった85型を登場させました。おそらく500台くらいは整備すれば動かすことはできたのではないでしょうか。ただし、主砲の射撃が可能なものはごくわずかだったでしょう。
  この映画の最初の作品が西側市場で成功すると、さらに古い76型の復元のための予算が取られたらしいです。シリーズのより後の作品では、復元した76型が多数登場しています。

  映画製作での問題はドイツ軍側の戦車をどう再現するかだったようです。ソ連陸軍が戦時中に鹵獲ろかく(捕獲)した本物もあったでしょうが、動かせなかったでしょう。そこで、T-34を土台にして外装を施してティーガーやパンターに改造したようです。
  だから、プラモデルでティーガーやパンターを作った経験がある人は気づいたでしょうが、映画ではドイツ側の戦車のシャーシやキャタラピラの車輪が本物とは少し違っています。それに、映画のティーガーは本物よりはいくぶん小さいようです。
  それでも、多数の戦車が平原を疾駆し砲撃し合うシーンでは、その投入物量の大きさに圧倒され、細かな部分にはめったに目がいかないので、そういう対策で十分に存在感・リアリティが実現できたのです。

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