ミュンヘン 目次
暴力と憎悪の連鎖
原題と原作について
見どころ
あらすじ
ミュンヘン・オリンピックのテロ事件
テロリストたちの要求、交渉の経過
大 惨 劇
されどオリンピックは続く
偶然の連鎖としての状況
イスラエル国家の意思表示としての報復
暴力の応酬
標的の11人
超法規的=非合法の作戦
作戦ティームのメンバー
容赦ない暗殺
容赦ない暗殺 続き
闇の情報屋稼業
大きすぎた破壊力
爆弾製造役の能力
方針の対立
ベイルートでの襲撃
ルイのファミリー
危ない回り道
変貌する作戦
CIAコネクション
CIAの妨害
策謀の交差
復讐のための復讐
パンドーラの箱
分 岐 点
運河での殺戮
崩壊し始めたティーム
隠れ家襲撃の失敗
PTSD
国家論の問題として
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史上最大の作戦
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空軍大戦略
医療サスペンス
コーマ
評  決

崩壊し始めたティーム

  それからしばらくして、パリの隠れ家に戻った3人は、夕食を取っていた。3人の顔つきは沈鬱だった。ティームのメンバーは、過酷なストレスを受け続けてきた。ストレスは彼らの精神を少しずつ、だが着実に、侵食していた。
  ハンスは、あたかも自問するかのように、この作戦が始まってから7か月のあいだの動きを総括しながら、2人に語りかけた。

  私たちは、この7か月のあいだに、「黒い九月」=PLOの幹部を6人葬り去った。けれども、この6人のポストには新たな人物が置き換えられ、「黒い九月」は相変わらず世界各地で、イスラエル人を殺すためのテロルを続けている。
  この間に、世界各国の大使館や領事館に手紙爆弾を送りつける事件は11件起きた。ワシントンでは大使館付き武官が殺された。
  アテネでは旅客機のハイジャックがあり、人質130人が殺された。
  報復作戦は、パレスティナ側の憎悪をさらに増幅して、テロルは繰り返され、よりひどくなっている。事態は好転しているとは思えない。
  しかも、カールは暗殺されてしまった。

  そのカールは仲間に問いかけた。われわれは、これまでにどれだけの国内法を踏みにじったのか。どれほど残酷な暴力を振るってきたのか、と。
  ハンスは深い懐疑を交えて自問している。
  このティームが暗殺してきた人びとのいく人かは、ヨーロッパの市民社会では、家庭を築き、穏健な市民として暮らしていた。彼ら自身は、「黒い九月」のテロルとは直接関係していない。けれども、彼らがPLOとの関係のなかで演じた役割について、責任を問い、平穏な生活を根底から破壊してしまった・・・
  ボウトハウスにいたあの女(殺し屋)の死体からガウンを取り払ったのは、間違いだった、と後悔していた。なぜあのとき、あれほどの憎悪と復讐心を抱いていたのか?、と。


  この問いかけに対して、アヴナー自身、同じように深い苦悩と懐疑のなかにいたが、無理やり自分を鼓舞するように、「サラーメはどこまで追いかけても殺してやるさ」とぶっきらぼうに言い放った。

ハンスの死
  その夜が更け、翌日の未明近くになったとき、自室で寝ていたアヴナーはスティーヴに起こされた。「ハンスが出かけたまま戻らない」と。
  ハンスはあのあと、精神的にすっかり打ちのめされていて、深夜に外に出かけたのだという。
  2人はハンスの行方を捜した。
  そして、セーヌ河畔の公園のベンチにハンスの後姿を見つけた。が、すでに死亡していた。ナイフで刺されていた。それが致命傷だった。自分を見失い、警戒心を捨ててしまった結果、敵対勢力の殺し屋に見つかり、襲われたのか。

ロバートの死
  同じ夜、ロバートも死んだ。ベルギーの自宅で爆薬をいじっているときに、回転玩具と回路がつながっていた起爆装置に通電してしまい、爆発したのだ。部屋が吹き飛んでしまった。
  それは偶然の事故なのか、それとも、外部から侵入した誰かが起爆装置の電気回路を回転玩具に結びつけたのか。ロバートの不注意というには、あまりにも回路設定が巧みだった。
  いずれにせよ、こうしてティームのメンバーはたった2人になってしまった。それでも、アヴナーはサラーメ暗殺作戦を遂行しようとした。

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