第1章 ヨーロッパ世界経済と諸国家体系の出現
この章の目次
私たちの研究の目的は、この全歴史的過程を理論的に総括し、整序して描き出すことである。ひとまず次章からは、中世ヨーロッパの秩序の危機・解体から最初のブルジョワ国民国家が誕生する時期、すなわち13世紀から17世紀までのヨーロッパ諸国家の形成史を世界経済の生成と変動という文脈を背景に置きながら考察する。
叙述の方法としては次のような方針を採用する。
第1篇の考察の対象は、イタリア、ドイツ・中央ヨーロッパ、ネーデルラント(フランデルンとブラバントを含む)、イベリア半島、イングランド、フランス、北欧・スウェーデンとする。研究の主題は、これらの諸地域・諸地方における政治的・法的・軍事的な構造の歴史的変動を世界システムの文脈のなかに位置づけて考察することだ。そのためには、それぞれの地域・地方の考察を相互に関連づけ比較することを可能にする視点や方法でおこなわなければならない。
そこで、これらの諸地域・諸地方で有力な政治的=軍事的単位となった政治体や王権、都市団体、都市国家の成立過程を分析するのにさいして、これらの諸地域・諸地方がどのような経済的再生産構造をなし、またヨーロッパ世界市場の形成過程においてどのような役割を演じ、世界市場と世界分業体系のなかでどのような地位を占めたのか、そして、その役割や地位がその政治的=軍事的構造と相互にどのように影響し合ったかを吟味することになる。
つまり、どの地域・地方も基本的に同じやり方、同じ視点で考察するということだ。この方法は「当たり前」のものだが、しかし従来のヨーロッパ横断的な比較研究、総合研究はすべからく、個別の地域や国家の専門研究者の「単なるアンソロジー」で主題や方法がバラバラだった。そのために、エスパーニャの歴史はこう描かれているが、フランスの歴史はまた違った描き方になっていて、相互に共通する事象や問題を関連させたり比較したりしようとすると、きわめて大きな困難にぶつかるという具合になってしまっていた。
このような限界を超え出るための試みとして、上に述べたように、できる限り関連づけ可能で比較可能な叙述方法を選択することにしたのだ。
世界経済における資本と国家、そして都市
第1篇
ヨーロッパ諸国家体系の形成と世界都市
補章-1
ヨーロッパの農村、都市と生態系
――中世中期から晩期
補章-2
ヨーロッパ史における戦争と軍事組織
――中世から近代
第3章
都市と国家のはざまで
――ネーデルラント諸都市と国家形成