序章 世界経済のなかの資本と国家という視点

この章の目次

はじめに

1 資本の概念体系について

ⅰ 経済学批判要綱のプラン

ⅱ 度外視された問題群

2 生産様式と諸国家体系をめぐる論争

ⅰ マルクスの本源的蓄積論

ⅱ ローザ・ルクセンブルクの問題提起

ⅲ 生産様式論争

ⅳ 従属論争と新従属論争

ⅴ 構造的暴力と不平等交換

ⅵ 国家導出論争

3 世界システムとしての資本主義

4 「資本の支配」の歴史区分

ⅰ 資本主義はいつ始まったか

ⅱ 資本主義の時期区分

ⅲ 世界経済の長期波動

ⅳ グローバル化のなかの国家

5 世界経済のなかの資本と国家、そして都市

ⅴ 構造的暴力と不平等交換

  この不平等な交換は、まさに世界市場での等価交換――価値法則 Wertgasetz ――をつうじておこなわれている。
  不均等な生産性を基礎とする等価交換は、生産性の低い領域から高い領域への価値の移転をもたらす。つまり貧富の格差を生み出し、拡大再生産するのだ。生産性とは「資本にとっての生産性」を意味する。「価値法則」はニュートラルで客観的な法則ではなく、産業諸部門の間の序列関係を再生産し、資本の支配を再生産する「共同主観」であって、権力構造なのだ。
  現実の交換価値は労働者の側から見た「社会的必要労働量」ではなく、資本の権力と競争によって形成される「社会的必要労働量」によって決定されることになる。価値尺度は資本の権力の表現形態なのだ。価値法則は資本という権力構造の運動形態と見るべきなのだ。
  こうして、1970年代の世界経済について言えば、西欧・北米・日本などの「先進諸国」の資本と国家の権力が世界経済に浸透しているのだ。

  北欧の経済社会学者ミュルダールたちは、こうした世界経済の仕組みを《構造的暴力 Strukuturelle Gewalt / structural violence 》と呼んだ。ノーマルな経済的交換の仕組みが格差や従属を再生産する構造ということだ。
  以前の――ときには現在でも顔を出す――強権むきだしの植民地的統治ないし軍事的支配は《直接的暴力 Unmittelbare Gewalt / immediate violence 》といわれる。これに対して、ノーマルな経済的交換によって周縁地域(民衆)の貧困と従属が再生産される仕組みが、構造的暴力なのである〔cf. Senghaas〕
  このような世界経済の文脈のなかで先進国の経済生活や政治システムが「ノーマルに」営まれているわけだ。とすれば、この文脈を織り込んで、民主主義や市民権が制度化されている先進諸国の資本蓄積と国家のありようを説明しなければならない。

  ところで、構造的暴力の理論が指摘する「不平等交換」のメカニズムは、マルクスが定式化した「価値法則」を、不平等交換を強制する――支配=従属関係を含む――権力構造の作用として理解する必要性を示している。この点に関して、もともとマルクス自身は、「労働生産性」や「労働時間」について「資本にとっての労働生産性」「資本にとっての労働時間」という文脈で述べているのだ、と読者に注意を喚起している。

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世界経済における資本と国家、そして都市

第1篇
 ヨーロッパ諸国家体系の形成と世界都市

◆全体目次 章と節◆

序章
 世界経済のなかの資本と国家という視点

第1章
 ヨーロッパ世界経済と諸国家体系の出現

補章-1
 ヨーロッパの農村、都市と生態系
 ――中世中期から晩期

補章-2
 ヨーロッパ史における戦争と軍事組織
 ――中世から近代

第2章
 商業資本=都市の成長と支配秩序

第2章
 商業資本=都市の成長と支配秩序

第1節
 地中海貿易圏でのヴェネツィアの興隆

第2節
 地中海世界貿易とイタリア都市国家群

第3節
 西ヨーロッパの都市形成と領主制

第4節
 バルト海貿易とハンザ都市同盟

第5節
 商業経営の洗練と商人の都市支配

第6節
 ドイツの政治的分裂と諸都市

第7節
 世界貿易、世界都市と政治秩序の変動

補章-3
 ヨーロッパの地政学的構造
 ――中世から近代初頭

補章-4
 ヨーロッパ諸国民国家の形成史への視座

第3章
 都市と国家のはざまで
 ――ネーデルラント諸都市と国家形成

第1節
 ブルッヘ(ブリュージュ)の勃興と戦乱

第2節
 アントウェルペンの繁栄と諸王権の対抗

第3節
 ネーデルラントの商業資本と国家
 ――経済的・政治的凝集とヘゲモニー

第4章
 イベリアの諸王朝と国家形成の挫折

第5章
 イングランド国民国家の形成

第6章
 フランスの王権と国家形成

第7章
 スウェーデンの奇妙な王権国家の形成

第8章
 中間総括と展望