翌朝、聖堂に会した修道僧による朝課の礼拝が始まった。ところが突然、マラキーアが悶絶して倒れた。近くの僧が駆け寄って抱き起こしたときには、すでに事切れていた。彼の指先と舌は黒変していた。ウイリアムの指摘したとおりだった。
だが、3人の火刑の準備は着々と進められていた。
ウイリアムとアドゥソが文書館の書庫に入り込んで、ホルヘとの最終的対決に挑むことになったしだいは、すでに「真相」の項で述べたとおりだ。そして、文書館の巨大な建物と塔が炎に包まれる。アドゥソとウイリアムは、どうにか脱出した。
さて、ウィリアムたちが書庫のなかで対決してあいだに、火刑は始まっていた。
3人は火刑用の十字架に縛りつけられ、刑架の根元には薪が積み上げられ、最初にサルヴァトーレ、続いてレミージョの足元の薪に火がつけられた。そして、村娘の薪に火がつけられようとしたとき、緊迫した不穏な気配が立ち込めた。
刑場の周りに小作農や村人たちが、武器になりそうな農具を携えて集まり、ベルナール一行に迫ろうとしていた。ベルナールは反乱蜂起の気配に気づいて、兵隊とともに撤収(逃亡)を始めた。
その頃、勢いを増した炎は文書館から聖堂た僧坊などに燃え広がっていた。僧たちによる消火や貴重な文物や宝物を救い出そうとする努力は、混乱のなかで、まったく意味をなさなかった。僧院全体が火災に飲み込まれようとしていた。
ところで、ベルナール一行の逃亡に気づいたアドゥソが、兵隊に護衛された馬車を追いかけたが無駄だった。落胆したアドゥソが振り返ると、2つの十字架はすっかり焼け焦げていて、人の姿は消滅していた。
さて、僧院の門から運よく逃げ出したベルナールではあったが、彼の乗った馬車は屈曲や起伏の多い山道で横倒しになり、崖の縁にかろうじてとどまった。ところが、憤った村人たちは、その馬車をベルナールもろともがけ下に突き落としてしまった。
ベルナールは崖を転がって、無数の鋭い針金が突き出た農具(脱穀機の回転胴)の上に落下した。身体中を針金が突き抜けて即死した。
僧院の火災は一晩中続いた。由緒と権威がある修道院は残骸を残して焼失してしまった。
明け方、ウイリアムとアドゥソは2頭のロバを見つけて跨り、山道を麓に向かった。朝霧に包まれて薄暗い山道でアドゥソは、道端に佇む人影を見つけた。近づくと、あの村娘だった。村人によって火刑の十字架から救出されて無事だったのだ。彼は娘に近づき頬をなでた。娘は愛惜しそうな眼差しを向けてきた。
だが、アドゥソは決然として娘から離れ、先行する師のあとを追いかけた。それでも、何度か後ろを振り返って、娘の姿を眺めるのだった。
一連の出来事は遠い過去の記憶だった。その日から何十年も過ぎた頃、老衰による死期を目前にしたアドゥソの回想の言葉とともに、荒野を旅する子弟の姿を遠景に映し出しながら、映像は終わる。