その朝、ホルヘは朝課の礼拝には参加しなかった。
マラキーアが文書館書庫の奥深くに入り「詩論」を手にしたとき、ウィリアムとアドゥソが秘密の通路の1つから書庫に進入してきた。
2人はすでに1度書庫に忍び込んだが、そのときは他者を寄せ付けないように仕組まれた迷路に迷ってしまった。だが、そのときの経験を生かして、今度は書庫の大まかな構造を理解していた。秘密の部屋の扉を開ける暗号を解明したのだ。
ウィリアムとアドゥソは、異端審問で有罪を宣告され火刑に処されようとしているサルヴァトーレとレミージョ、そして美しい村娘の冤罪を晴らすために、それゆえまた、ホルヘの狂信的な策謀を暴くために、ここに忍び込んだのだ。それというのも、ここの蔵書の秘密が、5人もの修道僧の連続怪死を呼び起こした原因だということを知ったからだ。
ところが、2人が秘密の部屋に入ると、マラキーアは手にした『詩論』のペイジをめくった指を嘗めながら、蔵書を葬り去ろうとしていた。砒素の毒が身体中に回るのを感じながら、マラキーアはカドゥーソのランプを奪い、その炎を書庫に燃え移らせようとした。ウィリアムは食い止めようとしたが、間に合わなかった。
広がる炎を前に、ウィリアムはカドゥーソを先に文書館から逃がそうとした。そして、彼自身は貴重な書籍を救おうと懸命の努力をするのだった。
カドゥーソはウィリアムに追い立てられるように、出口への通路に急いで、どうにか館から外に出ることができた。
振り返ると、文書館の建物の窓という窓から炎と紅蓮の煙が噴き出していた。ヨーロッパでも随一の蔵書を誇る文書館が消滅しようとしていた。そして、地下室の宝物蔵も。
さて、修道院の前庭に設えられた火刑用の十字架はすでに炎に包まれていた。 アドゥソは文書館の炎と火刑の炎を見て立ちすくんだ。だが、しばらくして、別の出口からウィリアムが脱出してきた。彼は両腕と何冊もの書籍を抱え、着ている衣にくるんで運び出した書籍もあった。この学究は、自分の命よりも蔵書の救出を優先したのか。
以上は、この作品を平板に観たときの連続怪死事件の「真相」にすぎないことを断っておく。映画が描き出すものは、それだけではない。