補章―2 ヨーロッパ史における戦争と軍事組織
――中世から近代
この章の目次
地中海方面の特徴は、つまるところ、イタリア諸都市の権力と商業の影響力の大きさだった。
騎士諸階層のあいだの封建法的関係は、イタリア北部ではロンバルディアまで版図を広げたカローリング王朝によって、南部ではノルマン君侯によって導入された。しかし、農村の領主貴族のあいだにも古代ローマ以来の貨幣報酬をともなう都市社会が残存していたため、基本的には受け入れられなかった。
とりわけ北イタリアでは、農村は都市によって支配されていて、戦士階級が土地支配を基礎に独自の統治機構を構築する条件はなかったようだ。
軍事的・政治的秩序において都市が農村を囲い込むという構造のなかで、戦争にさいしては商人も地主も手工業者も農民も、区別なしに武器を取って軍務についた。住民集団はそれぞれ資産に応じて武装し、独自の軍事力を行使した。都市は、民兵団(住民の共同防衛組織)によって防衛された。
軍事組織のなかでの身分序列は武装能力の優劣によって決められた。それはつまるところ資産の多寡によって、しかも土地保有よりも財貨の保有量によって左右された。
しかし、都市経済の発達とともに、通常の商業や生産活動と軍役との分業が進展した――戦争請負の専門家集団が出現してきた。11世紀末からの諸都市国家どうしの戦争状態のなかで、都市団体との契約にしたがって軍務につく冒険的兵士、つまり傭兵たちが活躍することになった〔cf. Howard〕。富裕な門閥商人家系を中核とする都市団体は、都市防衛のために傭兵を雇った。
弩(いしゆみ) crossbow :
from MIchael Howard, op.cit.
傭兵たちは、武器を携行し、兵器の取扱いと戦闘に熟練した専門家だった。地中海方面では早くから、騎士の鎖帷子や甲冑を射抜く威力をもつ弩 crossbow が使用され、14、15世紀には銃と大砲が開発された。
これらの兵器は、地中海貿易を担うガレー船に取りつけられ、航海と貿易のあり方を方向づけた。
大砲が普及すると、城砦攻撃に威力を発揮し独特の攻城戦法が編み出されたが、これに対抗して稜堡――鋭角的に突出した星型の城壁や防御土塁――と濠を備えた防衛築城技術が発達した。だが、それはイタリアよりもカスティーリャで普及した。
世界経済における資本と国家、そして都市
第1篇
ヨーロッパ諸国家体系の形成と世界都市
◆全体目次 章と節◆
補章-1
ヨーロッパの農村、都市と生態系
――中世中期から晩期
補章-2
ヨーロッパ史における戦争と軍事組織
――中世から近代
第3章
都市と国家のはざまで
――ネーデルラント諸都市と国家形成