第2章 商業資本=都市の成長と支配秩序
第4節 バルト海貿易とハンザ都市同盟
この節の目次
1241年、リューベックとハンブルクのあいだで協定を締結し、これにヴェンデ地方とヴェストファーレン地方の諸都市も参加した。リューベックやヴィスマル、ロストックは、すでにそのときまでにバルト海と北海の航路に乗り出し、その漁業資源の取り引きを手がけていて、ハンブルクはフランデルン方面やライン地方への交易路にアクセスしていた。さらにヴェストファーレンの諸都市は、リューネブルクからの塩の交易路を支配していた。これらの都市は同盟をつうじて北欧における塩と魚の取り引きを支配することができるようになり、とりわけスカンディナヴィア半島最南端――当時はデンマールク王国領――のスコーネ市場での塩と鰊(塩を売り渡して塩漬け鰊を買い取る)取引市場を独占することができた。
1255年には、リューベックとハンブルクの最初の通貨同盟が登場する。個別の都市や領主が鋳造した貨幣は品位や品質が劣り、広域的な遠距離貿易での取引きでの決済――金額も大きくなる――には不向きだった。これらの通貨はもともと局地的な流通に向けられたもので、額面は小さく、それゆえ金貨ではなく銀貨がほとんどで、さらに銅や白銅などの含有率が大きかった。低品位の通貨は不利な交換比率に甘んじなければならなかった。より広範な通用力を認められる貨幣システム――とりわけ純度の高い銀貨、そしてまれに対外決済用の金貨――が必要とされたのである。ハンザ諸都市間の決済では銀貨が利用された。都市同盟は通貨同盟でもあった。
さらに翌1256年、リューベックとロストックのあいだの紛争をヴィスマルが調停してから、ヴェンデ地方3都市の結束が強まった。59年には、3都市相互間に海陸通商路の安全確保をめざす条約が締結された。以後、ヴェンデ地方の諸都市の会議がときおり開催されるようになった。
1260年のハンザ集会でケルンがで同盟に参加することになった。1265年にはリューベックに隣接する諸都市が、取引き促進のために毎年集会を行うことを取り決め、これがハンザ総会 Hansetag の原型となった。さらに1280年、リューベックとヴィスビーはバルト海における平和確保のための同盟を締結し、82年にはリーガが加入した。これらの都市同盟は緩やかに融合していった。それはまた、通商圏域の相互浸透=融合でもあった。
ところが、ハンザが都市間の同盟として成長するとともに、同盟諸都市のなかでの最優位をめぐる争いが、とりわけリューベックとヴィスビーのあいだに生じた。1293年、ザクセンおよびバルト海沿岸諸都市がロストックに参集し、ノヴゴロドの係争の上訴地としてのヴィスビーの地位を取り上げ、リューベックに移すことを決定した。98年には、遍歴商人団体の解散を企図するリューベックのイニシアティヴで、ヴィスビー商人仲間の権利が否定されてしまった。こうして、13世紀末葉に当時のバルト海地域を支配したのは、指導的都市リューベックのまわりに結集した諸都市のハンザとなった。そして、13世紀末には、リューベックの指導下にカムペンからドルパートにおよぶハンザ連合の政策の時代が始まった〔cf. Rörig〕。
都市同盟の勃興には、通商海運をめぐる産業技術の変動がともなっていた。ハンザ諸都市のバルト海貿易での優位は、技術的には、大型の装甲した帆走コッゲ船 Koggen が13世紀末に出現したことで確立した。やがて、大型の平底輸送船ウルク hourques, hooker が登場して、岩塩、ぶどう酒の大樽、木材、森林産物、船倉直積みの穀物などかさばるものを大量に搬送できるようになり、ハンザは北海・バルト海での海運を制覇した〔cf. Braudel〕。
1251年にフランデルン伯は、フランデルンにおける通商特権を、ハンザ諸都市を含むドイツ王国=ローマ帝国の商人に認めた。1266年にはイングランド王ヘンリー3世が、リューベックとハンブルクのハンザにイングランドにおける通商に関する特許状を与えた。1267年、ハンザという呼称がイングランド王との協定をめぐる公文書に明示的に登場する。これによって、ハンザ商人はバルト海だけでなく、北海、イングランド、フランデルンをもその貿易圏に組み入れることになった。イングランドでは、1282年にケルンがロンドンのドイツハンザ商人居住区に加わって、域内で最も強力な商人団体を構成することになった。
彼らは域外各地の貿易拠点となる有力都市に独自の基地=商館・集積所を設け、莫大な税や賦課上納と引き換えにその地の君侯領主から大幅な特権を与えられ、市場の独占または寡占状態をもたらしたので、劣位または従属的地位を強いられた在地の商人からは反発と不興を買った。
世界経済における資本と国家、そして都市
第1篇
ヨーロッパ諸国家体系の形成と世界都市
補章-1
ヨーロッパの農村、都市と生態系
――中世中期から晩期
補章-2
ヨーロッパ史における戦争と軍事組織
――中世から近代
第3章
都市と国家のはざまで
――ネーデルラント諸都市と国家形成